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2025年12月19日

若者のお酒離れって本当? 変化する“飲み方”と“誘い方”

TimeTree未来総研

カレンダーシェアアプリ「TimeTree」には、過去〜未来の予定が膨大に蓄積されています。ユーザーが日々登録する、さまざまな「予定データ」。これを分析すると、人々の生活に根ざした行動や価値観がリアルに現れます。

TimeTree未来総研が新たに始める連載企画「予定に訊いてみよう!」では、TimeTreeが保有する140億件超の予定データを手がかりに、SNSには出てこないトレンドの傾向・行動の変化・まだ可視化されていない“インサイト”などを読み解いていきます。

連載初回となる本記事では、

  • 若者トレンドを研究する SHIBUYA109 lab. 所長 長田麻衣さん

  • 飲む/飲まないを自由に選べる社会を目指す スマドリ株式会社 取締役CMO 元田済さん

  • 予定データを調査・分析するTimeTree未来総合研究所 所長 深川泰斗(株式会社TimeTree 代表取締役社長 / 最高経営責任者 CEO)

の3者の視点から、「若者のお酒離れ」や「コミュニケーションの変化」を多角的に考察していきます。

なお、元田さん・長田さんは、スマドリ株式会社と一般社団法人渋谷未来デザインが中核となって推進する「渋谷スマートドリンキングプロジェクト※」の一環として、2025年に両社が主体となり実施した「MZ世代 飲み会に対するホンネ」調査(分析協力:SHIBUYA109 lab.)にも携わっており、若者の「飲み方」に対する意識や価値観について詳しく把握しているお二人です。

※渋谷スマートドリンキングプロジェクト:飲み方の多様性を尊重し合える社会の実現を目指し、企業・自治体・大学と連携した啓発活動や各種調査を行う取り組み。

「お酒離れ」と言われて久しいけれど、本当? ひもとくと、若者の心理がいろいろな角度で浮かび上がってきました。


140億件超の「予定データ」から、リアルな未来を覗く

TimeTreeは、家族やカップル、友人同士など、グループで予定を共有できるカレンダーアプリです。もっとも多い使われ方は、家族との共有。最近ではカップルでの利用も増えています。

深川 「昔は冷蔵庫やリビングに紙のカレンダーが貼ってありましたよね。あれがそのままスマホの中に入った感じです」

現在、TimeTreeが保有する予定データの件数は全世界で140億件以上にのぼります。このデータを活用し社会に役立てようと2024年、予定データを統計的に分析する「TimeTree未来総合研究所」を立ち上げました。

予定データのユニーク性は、過去だけでなく未来までわかること。そして、とにかく生活に強く結びついていることです。

深川 「猫の動画を見ているからといって猫を飼っているとは限りません。一方で、TimeTreeの予定データは、『動物病院』『予防接種』のように、実際の行動に直結してとてもリアルです。

早いと半年先、短くても2週間〜1か月先まで、未来の予定がどんどん登録されていきます。過去や現在ではなく、これから起きることが見えるのが面白いところ。このデータを、生活者の方に気付きをご提供することや、広告・マーケティング分野にもっと活用できるのではないかと考えています」

「飲みに行こう」ではなく「焼き鳥行こう」。誘う“理由”を求めるZ世代

では、本題である「若者とお酒」に目を向けていきましょう。

20代・30代ユーザーの予定データを見ると、「飲み」「🍺(ビールの絵文字)」など、飲み会を連想させるワードはコロナ禍で大きく減少したあと、再び増加に転じています。20代では直近で2019年を上回る水準まで回復しており、30代も緩やかな増加傾向が見られます。

さらに、ここ数年の20代で特に目立つのが、「焼き鳥」「スナック」といった具体的な場を表すワードの増加です。

深川 「コロナ禍以降、20代はテーマや内容にフォーカスした予定を多く入れているように見えます」

長田さんも、Z世代への調査から同じ傾向を感じていると話します。

長田さん 「最近の若者は、行き先を具体的に決めてから動く傾向があります。『とりあえず渋谷に集合してから店を探す』みたいなことが少ない。『焼き鳥』が予定として入っているのは、その表れだと思います」

さらに、具体的な場所が予定として登録されている背景には、若者の“誘い方”に関する変化があるんだとか。

長田さん 「若者は、何かにつけて集まる言い訳を探しているんですよね。『なんで誘ってきたの?』と友達に否定されたくない、断られたくない。そういう感情がすごく強いんです。なので、『飲みに行こう』ではなく『焼き鳥に行こう』など、誘う理由をつくっていることが多いんです」

深川 「『スナック』も20代が大きく伸びているんです。昔は二軒目で行く場所でしたよね。でも今は、わざわざ予定に『スナック』と書き込んで出かけていく。しかも、それが20代の予定に多く出てくるところが興味深いです」

この点について、元田さんは若者の心理を補足します。

元田さん 「私も最初は『若者がスナック?』と不思議に思ったんです。でも、スマドリの調査で詳しく聞いていくと、『スナックに行っている自分たち』というのが楽しいみたいですね。カラオケがあって、ママが場をリードしてくれて、ぐっと距離を縮めることができる――そういう場所で誰かと過ごせる喜びを感じているそうです。コロナ禍を経て対面コミュニケーションの価値が上がったからこそ、スナックが新しい遊び場として再評価されているのかなと感じます」 Z世代の中で対面コミュニケーションの価値が上がっている。この点について、長田さんも同意します。

長田さん 「SNSがここまで浸透しているからこそ、逆にリアルで会うことを、Z世代はすごく大事にしています。せっかくなら、ただ『なんとなくお酒を飲む』のではなく目的ありきで集まる。相手とどう過ごすか、どうやって自分たちらしい時間を演出するか、あらかじめ考えたうえで過ごす。そんな人が増えているのだと思います」

飲み会からランチ会へ。アップデートされる交流の場

続いて、「忘年会」「新年会」などのワードについて。ここにもコロナの影響がうかがえます。

深川 「『忘年会』『新年会』などは、コロナ前の2019年をピークに大きく減少し、その後も戻っていません。一方で、『同期会』のようなワードは、2019年レベルまで戻ってきている。会社単位の飲み会が減り、同世代・少人数の飲み会へとシフトしているように見えます」

SHIBUYA109 lab. の調査※でも、上司を含めた会社の飲み会は好きかどうかについて「好き(33.4%)」「苦手だ(66.7%) 」となる一方で、同期や同世代の同僚との会社の飲み会が好きかについては意見がほぼ半数ずつに意見が分かれ「好き(50.8%)」「苦手だ(49.1%)」となりました。

※SHIBUYA109 lab.「Z世代の仕事に関する意識調査」

長田さん 「会社の飲み会は業務の延長だと感じてしまう人が多いです。大人側も『誘っていいのか分からない』と気をつかって誘いにくくなっています」

会社によっては、歓送迎会をランチ会に切り替えたり、オフィス内の短時間イベントにしたり。形式をアップデートしているところも増えているといいます。

「花金」「華金」というワードも、20代の予定データ上で使われています。

元田さん 「金曜日というのも、きっと言い訳が効くタイミングなんでしょうね。金曜日と『スナック』などのワードを組み合わせて分析していくと、マーケティング的にも面白い示唆が得られるかもしれません」

20代はノンアルも当たり前。 予定データから見える誘い方の変化

話題は、「禁酒」「断酒」といったワードへ。これらは70代で多く見られるものの、若者のデータではあまり登場しません。その理由について長田さんは、セルフコントロール力というキーワードを挙げます。

長田さん 「今の若い世代は、セルフコントロール力がとても高いので、予定表に入れなくても禁酒する日はしている印象があります。

この前、SHIBUYA109 lab.でインタビューした20代の子は『最近太っちゃったので、今日は飲み会には行かないと決めました』と言っていました。自分でルールを決めて、それをちゃんと守れる。筋トレのある日は飲みに行かない、という子も多いです」

ノンアルを選ぶことが、自分のコンディションや価値観に合わせた自然な選択肢になっているのです。

元田さん 「ノンアルへの抵抗感は、ほとんどなくなりつつあると感じます。『スマドリ』という言葉の認知は、昨年ついに全国で50%に達し、20~30代の割合が相対的に高いです。飲む人も飲まない人も一緒に楽しめる場をつくろうというスマドリのメッセージが、特に若い世代に広く受け入れられています」

若者の「ノンアル」への価値観は、誘い方にもはっきり表れます。

長田さん 「若い世代では『飲みに行こう』ではなく『ごはん行こう』という表現を使う人が増えているんです。今の20代は、10代の頃から『相手を気遣う』『強要しない』が当たり前になっている世代。誘う段階から、飲んでも飲まなくてもいいというニュアンスを伝えようとしているのだと思われます」

元田さん 「僕らの時代は『飲みに行こうぜ』が合言葉で、飲めない人はウーロン茶で耐える、みたいな空気がありました。でも長田さんがおっしゃるように、Z世代は、誰もが参加しやすいように誘い方から工夫している。すごいなと感心します」

でもなぜ、お酒との付き合い方がここまで大きく変わったのか。元田さんは、やはりコロナ禍の影響が外せないと話します。

元田さん 「お酒を教えてくれる先輩との接点がごそっと抜け落ちたんですよね。それまでの世代は、学生時代のバイト先やサークル・部活の先輩に、飲み方を教わってきました。でもコロナ禍の2年間を学生として過ごした世代は、そうした経験をほとんどしていない。彼らを『ロスアル(ロスアルコール)世代』と呼んでいた時期もあります」

SNSに載らないトレンドが、そっと見えてくる

対面で、質の高いコミュニケーションを求める若者たち。その傾向は、しばらく続きそうだと長田さんは話します。

長田さん 「SNSで大勢とつながっていても、どこか孤独を感じている若者は多いです。仲の良い友達は4人くらいでいい。その人たちと、いかに質の高い時間を過ごすかに、エネルギーもお金も使いたい――そんな感覚を持っている人がたくさんいます」

その兆しのひとつが、「夜カフェ」「夜ピクニック」という過ごし方が生まれていることです。

夜のカフェでお酒を飲まずに言葉を交わしたり。公園におしゃれなラグを敷き、グラスと少しのワインを持ち寄って夜風の中で語り合ったり。心がひらく雰囲気を自ら演出し、深いコミュニケーションを楽しむ若者が増えているのです。

長田さん 「『SHIBUYA109 lab.トレンド予測2026』では『スマホなし旅行』という言葉が出ました。スマホをロッカーに預けて街を歩く、みたいな過ごし方をしているんです。デジタルから一時的に離れて、目の前の友達との時間に集中したい。SNSや不特定多数の視線からのデトックスを求める動きも、今後強まりそうです」

こうしたプライベートな動きは、SNS上ではあまり見えてきません。だからこそ、実際の行動が反映される「予定データ」が、トレンドの兆しを捉えるツールとして価値を持ってきます。

さらに、予定データのトレンドと、SHIBUYA109 lab.が探ったトレンドが見事に一致した部分もありました。

それが、予定データ上で10代を中心に増えている「タコパ」「タコス」というワードです。

長田さん 「最近は、『タコパ』はたこ焼きではなくタコスを指すケースが増えています。『渋谷PARCO』のタコス屋さんでイベントをやったり、公園でタコスピクニック(タコピク)をしたり。たこ焼きパーティよりタコスパーティのほうが、気取らないけどおしゃれな感じが出るんですよね。私たちが発表した『SHIBUYA109 lab.トレンド予測2026』でも、『タコス』というワードが選ばれています」

深川 「私たちも今年から年間の予定トレンドを表彰する『TimeTree Schedule of the Year 2025』というアワードを開始したのですが、集計の際に『タコス』関連の予定数が大きく増えているのを確認していました。Z世代から直接話を聞いているSHIBUYA109 lab.さんのキャッチしているトレンドが、私たちのトレンドと重なるのは興味深いです。今後、より大きな動きになるかもしれませんね」

長田さん 「現場の声とデータが重なると、これから何が求められるのか、その輪郭がふっと見えてくる瞬間がありますよね」

さまざまなワードから考察を広げつつセッションは終了。最後に、長田さんと元田さんに「予定データ」に触れてみた感想を聞きました。

長田さん 「未来の行動がにじむデータというところに強い価値を感じます。小さなトレンドの兆しをより確かにつかむために、予定データはかなり役立つと実感しました」

元田さん 「プロモーションを考えるときに、すごく相性がいいデータですよね。人々の気分やムードを、いち早くリアルに捉えられる。スマドリのマーケティングを考えるうえでもヒントにできそうだと感じました」

「誘う」を応援するTimeTree

TimeTreeでは現在、アプリ上に未来を発見する場をつくっていく構想を進めています。ユーザーが日々書き込む予定を集約し、「今、世の中で予定され始めていること」を可視化する試みです。

深川 「X(旧Twitter)トレンドの予定版のようなイメージです。たとえば『この地域でインフルエンザ予防接種の予定が急に増えている』『そろそろみんな確定申告の予定を入れ始めている』といった動きが見えるようになる。それを見た人が『あ、私も予約しなきゃ』と気づけるような場所にしたいんです」

さらに深川さんは、こうも続けます。

深川 「TimeTreeのミッションは“誘おう”をつくることです。『飲みに行こう』『焼き鳥食べに行こう』と予定を書き込んで、実際に行って楽しんでもらう。空いている日をシェアして、ご飯や旅行に誘い合う。その結果として思い出が増えていく――そんなきっかけをつくるのが、TimeTreeの役割だと考えています。

私たちTimeTree未来総合研究所はこれからも、予定データを活用したコミュニケーションで、大切な人を誘いたくなるようなきっかけをつくっていきます」

誘うことに心理的なハードルを感じる人が多いZ世代に向けても、何かできることを探っていきたいと話します。

若者のお酒との付き合い方は、ここ数年で大きく変わりました。

「みんなでガンガン飲む」から、「自分でコントロールする」「アルコールを飲むも飲まないも自由」な楽しみ方へ。「飲み会」と呼ばれる大人数の場から、「焼き鳥」「スナック」といった具体的で質の高い場へ。

その変化の根底にあるのは、大切な人といい時間を過ごしたいというシンプルな願いなのかもしれません。

データをどう読み解き、どう活かしていくか。予定データには、楽しい未来につながるヒントがまだまだたくさん隠されています。

撮影:稲本裕太 取材・執筆:安岡晴香 編集:今井雄紀(株式会社ツドイ)


TimeTree未来総研について

TimeTree未来総合研究所は、全世界の登録ユーザー数が7,000万人(※2025年11月時点)を超えるカレンダーシェアアプリ「TimeTree」に登録された140億超(※2025年10月時点)の予定データを統計的に分析するTimeTreeの社内研究所です。多様性に溢れ、先の読めない時代においても、みなさまが納得して未来を選べるきっかけをつくるために、予定データから見える世の中の動きや未来の兆しを発信しています。